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浦和地方裁判所 昭和48年(行ウ)4号 判決

原告 菊地實 外四名

被告 埼玉県知事 外一名

主文

一  原告らの本件訴をいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

(主位的請求の趣旨)

1 被告埼玉県知事が昭和四七年二月四日なした埼玉県告示第一四五号埼玉県道「笠幡、狭山線」道路区域変更処分は無効であることを確認する。

2 被告社団法人霞ケ関カンツリー倶楽部は埼玉県に対し、

(一) 別紙物件目録一記載の各土地につき、同目録記載の各所有権移転登記の抹消登記手続を

(二) 別紙物件目録二記載の各土地につき、真正な登記名義回復を登記原因として所有権移転登記手続を

(三) 別紙物件目録一及び二記載の各土地上の土砂、草木等の障害物を収去して同土地の明渡を

各せよ。

3 訴訟費用は、被告らの負担とする。

(予備的請求の趣旨)

1 被告埼玉県知事が昭和四七年二月四日なした埼玉県告示第一四五号埼玉県道「笠幡、狭山線」道路区域変更処分を取り消す。

2 被告社団法人霞ケ関カンツリー倶楽部は埼玉県に対し、

(一) 別紙物件目録一記載の各土地につき、同目録記載の各所有権移転登記の抹消登記手続を

(二) 別紙物件目録二記載の各土地につき、真正な登記名義回復を登記原因として所有権移転登記手続を

(三) 別紙物件目録一及び二記載の各土地上の土砂、草木等障害物を収去して同土地の明渡を

各せよ。

3 訴訟費用は、被告らの負担とする。

二  被告埼玉県知事

(本案前の申立)

1 原告らの訴をいずれも却下する。

2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

(請求の趣旨に対する答弁)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

三  被告社団法人霞ケ関カンツリー倶楽部

(請求の趣旨に対する答弁)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二原告らの主張

(請求の原因)

一  原告らは、いずれも埼玉県の住民である。

二1  別紙物件目録一記載の各土地(以下、本件一土地という。)は、埼玉県の所有である。

2  別紙物件目録二記載の各土地(以下、本件二土地という。)は、元国(建設省所管)の所有であつたが、埼玉県は昭和四六年一二月一〇日その譲与を受け、所有しているものである。

三1  被告埼玉県知事(以下、被告知事という。)は、昭和四七年二月四日埼玉県告示第一四五号により埼玉県道「笠幡、狭山線」(以下、本件道路という。)の道路区域を変更する処分(以下、本件変更処分という。)をした。すなわち、本件道路のうち別紙図面記載の「2―3―6―5」の部分(以下、旧道という。)を同図面記載の「2―7―5」(以下、新道という。)に変更した。

2  本件変更処分がなされるに至つた経過

(一) 本件道路の旧道は、本件一及び二の土地(以下、両土地を併せて本件各土地という。)を含む幅員五ないし六・五メートル、延長二、〇〇〇メートルで、その両側には被告社団法人霞ケ関カンツリー倶楽部(以下、被告倶楽部という。)所有のゴルフ場が存在している。

(二) 旧道には国鉄川越線笠幡駅と西武鉄道新宿線入間川駅間の定期バスが運行されていた。右定期バスは、川越市笠幡地区と狭山市入間川地区との間の通勤、通学、その他日常生活に利用されていた。旧道は散歩道、自転車道として比較的安全であり、川越市住民のみでなく近郊住民にも利用されていた。右のとおり旧道は本件道路の一部として重要な機能を果していた。

(三) 被告倶楽部は、右のとおり重要な機能を果たす旧道をゴルフ場にとつて有害であるとして、埼玉県に対し旧道の閉鎖を働きかけた。埼玉県はこれに呼応し、本件道路の改良を名目として旧道を廃止して新道に付替える工事を企画し、被告知事は、昭和四四年一月一七日被告倶楽部との間に「県道笠幡狭山線道路改良工事施工協定」を締結した。その大綱は左のとおりである。

(1) 旧道を廃し、ゴルフ場の外側に新道を建設する。

(2) 新道の敷地買収費その他一切の工事費は全額被告倶楽部が負担する。

(3) 旧道敷地のうち本件各土地を被告倶楽部所有地(新道敷地の一部)と交換する。

(四) 埼玉県は、右協定締結後直ちに新道敷地の買収に着手したが、その際被買収者に対して旧道の閉鎖予定を告げず、却つて新道はバイパスである旨説明した。

(五) 新道工事は昭和四六年一一月一七日完成検査を終了した。

(六) この間、住民はようやくにして旧道閉鎖のおそれを察知し、原告発知大治他三〇一名の住民が旧道閉鎖反対の署名簿を作成して陳情をなしたが、埼玉県は係官において形式的に現地を視察するにすぎなかつた。

(七) 被告知事は、昭和四七年二月四日旧道を廃止し、新道を本件道路の区域とする旨の本件変更処分を行なつた。

(八) 昭和四七年四月二八日、埼玉県は被告倶楽部との間に本件各土地と被告倶楽部所有土地との交換契約を締結した。

(九) 昭和四七年三月二九日、川越市は不用物件とされた旧道敷地中本件各土地を除く部分のみを市道に認定した。

(一〇) 昭和四七年一〇月二三日、被告倶楽部(埼玉県ではない。)は、付近の自治会長を通じて旧道を閉鎖する旨住民に通告し、同月二六日旧道は閉鎖された。

四  本件各土地の行政財産性

1 本件各土地は、埼玉県の所有する不動産であるから、地方自治法にいわゆる公有財産である。

2 本件各土地は、旧道の敷地であつたから、本件変更処分以前は公有財産のうちの行政財産であつた。

五  本件変更処分の財産管理性

1 本件変更処分は、道路法一八条に基づくものである。しかしながら、本件変更処分によつて本件各土地は、次に述べるとおり地方自治法上の行政財産から普通財産に変更されるのであつて、この点で被告知事のなした道路法に基づく本件変更処分は、同時に地方自治法上の財産管理行為に該当するというべきである。

2 本件各土地は本件変更処分の結果、道路法九二条、同法施行令三八条により不用物件として八カ月間管理されることになつた。そして右管理期間中も従来の管理に準じた管理がなされること、及び道路法九二条二項により同法四条の規定が準用され国有財産法一八条一項と同様の制限に服することからして、不用物件とされた本件各土地はまだ行政財産であると解すべきである。

しかしながら、不用物件の管理期間経過後は、道路法九四条の制限を除き制限に服さなくなり、且つ地方自治法及び地方財政法上特段の用途廃止の手続はないものであるから、結局本件変更処分が停止条件付用途廃止を意味し、不用物件の管理期間が経過したときに自動的に普通財産に切りかえられることになる。そうすると、その意味で本件変更処分が同時に財務会計上の財産管理に該る訳である。

したがつて、本件変更処分が違法である場合、財務会計上の財産管理の面でもまた違法であるといわなければならない。

六  本件変更処分の違法

1 本件変更処分の手続上の違法

(一) 本件変更処分は行政庁の行なう覊束的処分に属し、行政手続の一環であることは論をまたない。

現代社会においては国民の日常生活の各面において行政機能が拡大し、住民の基本的人権は行政が適正な手続によつて行なわれることなしには保障され得ない。英国においては、「自然的正義」の原則が確立され、権限の適正な行使が要求され、その具体的顕現として「偏見排除の原則」及び「双方聴聞の原則」により国民の行政への参加が認められている。また米国においても、合衆国憲法修正五条により「何人も、法の適正な手続なくしては生命、自由又は財産を奪われない。」と規定されている。

日本国憲法においても、一三条、三一条によつて行政の適正手続が要求されている。

(二) この適正手続条項による保障で最も重要なものは、行政決定に至るまでに事前の告知、聴聞を受ける権利の保障である。すなわち、行政処分によつて不利益な結果を受ける当事者や利害関係人に、まず行政処分に先立ち告知をなし、十分な準備をなさしめたうえで聴聞その他の意見を述べる機会を与えなければならないのである。(この点に関して、東京地判昭和三八年一二月二五日行政裁判例集一四巻一二号参照)

(三) また道路法はその七一条三項において、道路管理者は同条一項、二項の除去命令をする場合には違反者に対しあらかじめ聴聞を行なわなければならない旨定めている。そして聴聞は不法占拠者であつても除去命令の前に発しなければならないものである(佐賀地判昭和三〇年四月二三日行政裁判例集六巻四号一一〇七頁)。しかるに本件変更処分は、単なる除去命令ではなく、旧道の利用を全面的に排除するもので、適法な旧道利用者としての原告ら住民の生活基盤を奪うものである。したがつて道路法は、その七一条三項の規定からして、本件変更処分のような場合にも住民に対し事前に告知・聴聞の機会を与えるべきことを当然の前提としているといわなければならない。

(四) 以上のとおり、本件変更処分は、旧道の供用廃止を伴うものであつて、原告らを含む住民の旧道を利用する利益を一挙に奪い、生活の基盤を一変させるものであるから、被告知事は、憲法一三条、三一条及び道路法の趣旨に基づき、本件変更処分をなすに当り事前に住民に対して告知・聴聞等の手続をとらなければならなかつたところ、これらの手続をとらず、単に被買収者に対する説明会を開催したのみであつた。

したがつて、本件変更処分はその手続上憲法一三条、三一条及び道路法の趣旨に反するもので違法である。

2 本件変更処分の内容の違法

本件変更処分は旧道の供用廃止を結果するものであるが、かかる変更は、旧道と新道との間に代替性がある場合にのみ行ないうるものと解すべきである。ところで新道についてみると、(イ)その延長は二、二八〇メートルであるから、旧道より一割以上長距離である。このことは自動車利用者にとつては些細な事柄であるかもしれないが、歩行者、自転車利用者にとつては大きな違いである。(ロ)新道には定期バスは運行されない。このことは道路の機能上の問題として重大である。(ロ)新道は散歩道、自転車道としては不適当である。いうまでもなく新道は自動車専用道路ではないが、事実上自動車専用道路である。(ニ)ロ、ハと相まつて住民の新道利用効率は大きく減殺される。

右の事実によつて明らかなとおり、新道と旧道の機能、利用形態は全く異なつており、両者に代替性はないというべきである。これをして代替性があるといい、あるいは新道は旧道以上の機能を備えているとするのは道路の機能を全く自動車本位に解するものであつて、公共の福祉を増進すべき道路法の運用を誤まつたものである。

右のとおり旧道と新道は代替性を有しないから、旧道の供用廃止を伴う本件変更処分は違法であるというべきである。

3 被告知事の権限濫用

(一) 道路付替工事計画の樹立

(1) 元来、旧道は川越市笠幡地区と狭山市入間川地区とを結ぶ重要な道路として存在していた。この沿線には東京ゴルフ倶楽部、被告倶楽部の二つのゴルフ場が存在しているが、これら両倶楽部は漸次それぞれのゴルフ場の拡張を図り、現在の広大な地域を占めるに至つている。この過程において注目すべきことは、右ゴルフ場拡張に際し、殆んどの場合県道、市町村道が犠牲にされてきたことである。東京ゴルフ場拡張に際する狭山市側県道の変更、被告倶楽部ゴルフ場拡張に伴う十数個所の市道廃止はその顕著なものである。(例えば、別紙図面記載の「3―8」の公道が被告倶楽部の敷地の中を通つていたが、現在は「3―9―8」のように変更されている。)

(2) 本件道路付替工事はこれら一連の道路廃止の歴史の延長上に存するものに外ならない。それは後に明らかになるように、被告倶楽部ゴルフ場の間にある旧道を同被告に移譲することを目的としたものだからである。すなわち、本件変更処分によつて、別紙図面記載の「2―3―6―5」の区間に代つて、「2―7―5」の区間が県道とされたものである。ところで、「3―6―5」の区間は昭和三五年以前においては県道ではなく、「3―4」の区間が県道であつた。そうすると、元来本件道路は、川越市笠幡地区と狭山市柏原地区を結ぶものとして、「2―3―4」のほぼ直線の道路であつたのである。ところが被告知事は、まず第一段階として東京ゴルフクラブの便宜を図つて「3―4」の区間を「3―6―5―4」と湾曲させ、次に第二段階として被告倶楽部の利を図つて「2―3―6―5」の区間を「2―7―5」と更に変更させたのである。本件道路の変更の経過、歴史は、その変更の理由がゴルフ場の便宜を図つたものであることを如実に物語つている。

(3) 被告知事は「2―3」の道路拡張が困難であつたかの如き主張をしているが、被告知事が道路行政の公正を図り、被告倶楽部がこれに協力するものであるなら、多数の地主を対象として道路敷地の買収を行なうよりもはるかに容易であることは見易い道理である。まして「3―6」の区間は緑に恵まれた広い道路として存在しているのであつて、これと同様に拡張を図ることは可能であつたはずである。

(4) なお、本件変更処分前、定期バスは西武鉄道新宿線入間川駅から「4―5―7―6―3―2―1」を経て笠幡駅まで運行されていたが、右処分を契機として「4―5」を経て「7」までのみの運行となつた。

(5) 以上のような点から、本件道路付替工事計画の樹立に際して被告倶楽部から埼玉県関係者に対して強力な働きかけがなされたであろうことは容易に推測しうるのである。

(二) 工事計画の内容

本件変更処分は県道の改良を目的として行なわれたということである。それならば、新道敷地の取得、新道の工事等に要する費用は埼玉県が自ら出すべきものである。ところが、被告知事は前記のとおり被告倶楽部との間に「県道笠幡狭山線道路改良工事施工協定」を締結した。その中で、工事費は「全額乙(被告倶楽部)が負担するものとする。」(四条一項)と規定している。その工事費は結局六、九一〇万円に達している(昭和四六年一〇月変更協定書)。また、前記協定中には、旧道敷地のうち本件二土地と新道敷地のうち被告倶楽部所有の土地とを交換する旨の規定も存する(五条)。

これらの協定内容は、とりもなおさず本件道路の付替えにつき被告倶楽部が異常な勢意を示すということに止まらず、本件工事がまさしく被告倶楽部の利益を図るためのものであることを示しているのである。

(三) 工事の施工過程

新道の工事施工過程においても、被告倶楽部は積極的に関与し、この工事が埼玉県よりも同被告にとつて重要であることを示した。

まず新道敷地の取得に当たつては、当該土地所有者に対する説明会的な会合が開かれたが、この際、旧道について、大きなトラツク等は無理かもしれないが、自転車、歩行者等は従来どおり通行できる。すなわち新道はバイパスである旨説明された。旧道部分が既に廃道になることが協定の内容とされているにもかかわらず、このような説明がなされたのは、埼玉県又は被告倶楽部関係者が新道建設を容易にするために虚偽の事柄を示したものといわねばならない。

また新道敷地の売買に際しては、被告倶楽部は地主に対して協力金名義で金銭を支払い、それに伴つて覚書なるものを作成させている。「覚書」には「第一項の県道笠幡狭山線改良工事が取止めとなつた場合は、同項の協力金は乙(地主)より甲(被告倶楽部)に返還するものとする。」(三項)と規定し、これにより地主たちの反対の動きを牽制している。右協力金及び埼玉県と地主との間の売買代金合計については、別途「県道建設に伴う協力金明細書」なる書類が被告倶楽部名義にて発行されている。すなわち、このことは、新道建設が被告倶楽部のために行なわれるもので、埼玉県と地主との間の名目上の売買代金も実質は被告倶楽部のための旧道閉鎖に伴う「協力金」にすぎないことを極めて明瞭に示している。しかも、新道敷地売買については、右覚書が売買契約に先立つて作成され(一項において売買契約に先行することが予想されている。)、その後に埼玉県と地主との間の売買契約がなされているのである。これは売買契約の実質的交渉がすべて被告倶楽部の手で行なわれたことを示すのに外ならない。

このように県道建設であるのに、被告倶楽部が自らの手で敷地取得を図り、経費も負担するとの事実、これらは、いうまでもなく、本件道路改良工事がその実質は旧道の改良ではなく、旧道の閉鎖という被告倶楽部の利益を専ら図つていることを示している。

(四) 新道完成後の措置

新道完成後、形どおり本件変更処分、新道の供用開始の告示がそれぞれなされた。これに伴い旧道の本件各土地部分は、住民の存続要望を無視して廃道とされた。すなわち、旧道は形式的には不用物件として告示されたのであるから、何らの制約がなければ川越市においても旧道部分全部(当然行政区画内であるが。)を市道として認定したのであろうことは容易に推測しうる。ところが、本件各土地については埼玉県と被告倶楽部が住民の利益を無視した密約を締結し、廃道とすることを予定して新道建設を進めてきたのである。その結果、川越市においても旧道敷地中本件各土地については市道認定を断念、その余の部分のみを市道として認定したのである。しかも市道認定部分は、被告倶楽部敷地の人口までであるから半ば同被告専用道路であり、仮に同被告の人口がなければ、この部分も同被告に移譲されたおそれもあるのである。

また本件各土地部分の旧道が廃道とされたことを確定的に住民が知つたのは、前記告示の後八カ月余を経た昭和四七年一〇月末であつた。しかもそれは前記のとおり被告倶楽部から各自治会長宛文書の回覧によつてであつた。その内容の末尾には、はからずも「本件につき当倶楽部へ寄せられました皆様方の御好意に対しまして心から御礼を申し上げる次第で御座居ます。」とある。

これらの事実もまた、本件道路工事が専ら被告倶楽部の利益を図るために行なわれたものであることを示している。

(五) 以上のとおり本件道路付替工事は、いかなる視点からしても専ら被告倶楽部の利益を図るためにのみ行なわれたものであり、被告知事は、被告倶楽部のみの利益を図るためその権限を濫用して本件変更処分を行なつたものであることは明らかである。およそ地方公共団体の長はその権限を濫用してはならないのであつて、形式的には権限の行使の外形をとつていたとしても、実質的にはその権限を濫用している場合、その権限の行使は違法とせざるを得ない。

七  本件変更処分の無効又は取消

1 以上のとおり、本件変更処分は、その手続において憲法違反の重大な瑕疵を有し、内容においても道路法の趣旨に反し、更に被告知事がその権限を濫用して行なつたもので、その違法性は重大且つ明白である。

したがつて、本件変更処分は無効というべきである。

2 仮に右違法性が重大且つ明白でないとしても、本件変更処分は取り消されるべきである。

八  右のとおり、本件変更処分は無効又は取り消されるべきものであるから、無効の場合には当然に、取り消される場合にはこれにより本件各土地は行政財産から普通財産に変更しなかつたことになるのである。したがつて、本件各土地は、行政財産であるから、譲与又は交換の対象になし得ないものである。

九  しかるに

1 本件一土地については埼玉県から被告倶楽部に対する別紙物件目録一記載の所有権移転登記がなされ、本件二土地については国(建設省)から被告倶楽部に対する所有権移転登記がなされている。

2 また被告倶楽部は、本件各土地上に土砂、草木等の障害物を所有して本件各土地を占有している。

一〇  監査請求とその結果

1 原告らは、昭和四八年二月五日(同月四日は日曜日)、埼玉県監査委員に対し、本件変更処分は違法不当な財産管理であり、旧道敷地である本件各土地の処分は違法不当な財産処分であるからその是正を求めるとして監査請求をした。

2 埼玉県監査委員は右監査請求につき、昭和四八年三月三一日原告らに対し、本件各土地の処分は違法又は不当な処分とは認められない旨の監査結果を通知した。

二 結論

よつて、原告らは、被告知事に対しては、主位的に本件変更処分の無効確認、予備的に同処分の取消を、被告倶楽部に対しては、埼玉県に代位して同県の本件各土地の所有権に基づき、主位的に本件一土地について所有権移転登記の抹消登記手続、本件二土地について真正なる登記名義回復を原因とする所有権移転登記手続、並びに本件各土地上の障害物の収去及び本件各土地の明渡を、予備的に本件変更処分が取り消されたとき右と同じ請求を、各求める。

(被告知事の主張に対する認否及び反論)

一  本案前の主張について

1 本件変更処分は、以下に述べる理由により住民訴訟の対象となるものである。

2 本件旧道の敷地であつた本件各土地は、地方自治法にいわゆる行政財産である。行政財産の管理及び処分については、地方自治法二三八条の四に一般的な規定がなされており、また管理の権限については、地方自治法一四九条によつて普通地方公共団体の長に存するとされている。しかしながら、行政財産についての法規制はこれに止まらず、それぞれの公共目的に応じた管理者及び管理処分の方法の存することは地方自治法の当然予定しているところである(地方自治法二三八条の二、地方公営企業法、地方教育行政の組織及び運営に関する法律等各参照)。

3 ところで、道路は、広く一般公衆の通行の用に供されるもので、公共性の極めて高いものである。そのため、特に公道に関しては、単に一般的な公物に関する個別的な規制を超え、その設備、管理、処分等すべてについて基本法としての道路法が存するのである。もちろん、道路法は、単に行政財産の管理の面のみではなく、道路網の整備ということも主たる目的としているものであるが、そのことによつて道路法の財産管理法的側面が否定されるものではない。都道府県道の管理は、その路線の存する都道府県が行なう(道路法一五条)とされているが、この管理を怠れば当然地方自治法二四二条に基づく監査請求が認められ、同法二四二条の二による住民訴訟も認められるのである(東京地判昭和四四年一二月四日行政裁判例集二〇巻一二号一六五四頁)。このような意味において、道路法は地方自治法の財務に関する規定に対し特別法の関係にあるというべきである。

4 一般に、行政財産を普通財産にするのは財産管理者としての普通地方公共団体の長の権限であり(地方自治法一四九条)、その手続としては用途廃止の手続による(地方自治法二三八条の二、国有財産法八条等参照)。道路は供用の廃止によつて道路としての性格を喪失させられる。この点で、道路法の「供用の廃止」は、右の用途廃止手続に相当する行政処分であるというべきである。

本件変更処分は、「区域変更処分」であつて「供用の廃止」ではないが、区域の変更がなされた場合には、旧区域にかかわる道路については自動的に供用が廃止されるもので、この意味において供用廃止の処分も含まれていると解すべきである(前田光嘉編、建設関係法Ⅰ六七頁)。

したがつて、本件変更処分は、本件各土地の性質を行政財産から普通財産にきりかえる行為である(ただし、停止条件付用途廃止と解すべきことは従前主張のとおり。)。被告知事主張の如く、単なる「反射的効果」と解すべきものではない。

二  特別事情による請求棄却の主張について

原告らは被告知事に対して、旧道の原状回復を求めているだけで、新道の原状回復まで求めているのではない。

よつて、特別事情に該当する事実は存しない。

三  (事実関係の主張)に対する認否

1 第一項について

(一) 同1及び2の事実は認める。

(二) 同3の事実中、ゴルフ場が開設されたことは認めるが、本件道路が右ゴルフ場の造成の結果、形としてはゴルフ場の中を貫通している状況になつたという判断は争う。

(三) 同4の事実は認める。

(四) 同5の事実は認める。ただし、運行回数は一日一二回である。

(五) 同6ないし9の事実はいずれも不知。

2 第二項について

(一) 同1ないし6の事実はいずれも不知。

(二) 同7の事実中、協定がそれぞれ締結されたことは認める。

(三) 同8の事実は認める。

(四) 同9の事実中、埼玉県の説明者が被買収者に旧道を閉鎖する旨を説明していることは否認し、その余の事実は不知。

(五) 同10の事実中、新道の幅員は不知。その余の事実は認める。

(六) 同11の事実は認める。

第三被告知事の主張

(本案前の主張)

一  本件変更処分は、以下に述べる理由により地方自治法二四二条の二の住民訴訟の対象となる行為ではないから、原告らの被告知事に対する訴えは不適法であつて却下されるべきである。

二  住民訴訟制度の制定趣旨

1 地方自治法二四二条、二四二条の二の規定する住民監査請求及び住民訴訟は、地方公共団体の機関や職員による財政上の腐敗行為を防止、匡正する措置の一環として設けられた制度である。この制度は、地方公共団体の公金、財産、営造物等がその住民の公租公課から形成されるものであり、その使用、管理、処分はいずれも住民全体の利益のためになされるべきものであるから、地方公共団体の機関や職員の違法、不当な財務会計上の行為によつて生ずる地方公共団体の損失を住民の手で自ら防止、匡正し、それによつて地方公共団体、従つてまた住民の利益を保護しようとするものである。

2 しかして、地方自治法二四二条一項が、住民監査請求及び住民訴訟の対象を、「公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担」又は「公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る」場合に限定しているのは、正に1で述べた制度の趣旨を示しているものに他ならない。

3 ところで、住民監査請求は、住民に対し地方公共団体の事務執行の全般にわたつて不正の防止、匡正の機会を与えている事務監査の請求(地方自治法一二条二項、七五条)が住民の総数の五〇分の一以上の者の連署という多数の住民の参加を要件としているのと異なり、当該地方公共団体に属する住民であれば誰でも単独で提起できるものである。

また、住民訴訟は、行政事件訴訟法上、民衆訴訟(行政事件訴訟法五条、四二条)として、個々の住民がその法律上の利益を侵害されたことに基づくことなく提起することができるものである。この点で、広く行政処分及び裁決一般を対象とする抗告訴訟が、当該処分又は裁決によつて法律上の利益の侵害を受けたことを要件としているのと異なつている。

このように、住民監査請求及び住民訴訟が住民一人一人に他の類似の制度と比べてゆるやかな要件の下で制度の利用を許していることは、もつぱら1で述べたような制度の趣旨に基づくものであると考えられる。

4 右で述べたように、住民訴訟が地方公共団体の事務又はその機関の権限に属する事務全般を監督するための制度ではなく、地方公共団体の財政上の腐敗行為を防止・匡正する制度であることを考えると、住民訴訟の対象となる行為は財務的処理を直接の目的とする行為に限られると言わざるを得ない。

三  本件変更処分の性質

1 ところで、道路の区域とは道路を構成する敷地の幅及び長さによつて示される区域であり、それは道路管理者の行なう区域の決定という行政行為で定められ、その区域の決定によつて道路法の適用が明確となるのである。すなわち、区域の決定は道路の範囲を確定する行政上の確認行為であつて、道路法が適用される区域が明確にされることになるだけであり、住民訴訟の対象となる行為では全くない。

2 また、道路の区域の変更とは、バイパス道路を建設してダブルウエイとする場合、あるいは曲線を直して道路を改築する場合等、従来の道路の区域に新たな区域を追加し、又は道路の区域の一部若しくは全部を廃止して、これに代わるべき新たな道路の区域の決定をするという一連の手続行為を行なう行政処分である。

本件変更処分も、被告知事が道路の区域の一部を廃止してこれに代るべき新たな道路の区域を決定したものであり、道路として管理される区域を明確にすることを主眼とするものである。

3 なお、原告が主張しているとおり本件変更処分は、「区域変更処分」であつて「供用廃止」ではないが、区域の変更がなされた場合には旧区域に係る道路については自動的に供用が廃止されるもので、この意味において供用廃止の処分も含まれているとしても、財産の性質の変化としては、当該財産が結果的に公共の用に供されなくなつたことを意味するに過ぎず、当該財産の経済的価値については何らの変化も生じてはいない。それ故、仮に本件変更処分が原告の主張するように公有財産の「管理行為」の一種と考えられるとしても、それは道路法に基づく公物管理のための行為であり、地方自治法二四二条一項の規定している財務的処理、すなわち公有財産の財産的価値に着目して行なうような「管理行為」とは全く性質を異にする行為である。

4 したがつて、本件変更処分は住民訴訟の対象となる行為ではない。

(請求の原因に対する認否)

一  第一項の事実は認める。

二1  第二項1の事実中、本件一土地が元埼玉県の所有であつたことは認め、その余の事実は否認する。

2  同2の事実中、本件二土地が元国(建設省所管)の所有であつたことは認めるが、その余の事実は否認する。なお、埼玉県は本件変更処分以前本件二土地を旧道の敷地に供するため建設省から借り受けていたものである。

三1  第三項1の事実は認める。

2  同2について

(一) 同(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実中、旧道には定期バスが運行し、通勤、通学等に利用されていたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(三) 同(三)の事実中、被告知事が被告倶楽部との間に「県道笠幡狭山線道路改良工事施工協定」を締結したことは認めるが、その余は争う。

(四) 同(四)の事実中、埼玉県が買収に着手したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(五) 同(五)の事実は認める。

(六) 同(六)の事実については、住民が旧道閉鎖反対の陳情に来たことは認めるが、その余の事実は否認する。

(七) 同(七)の事実は認める。

(八) 同(八)の事実は認める。

(九) 同(九)の事実は認める。ただし、市道に認定したのは川越市のみでなく、狭山市、日高町も含まれる。

(一〇) 同(一〇)の事実は不知。

四1  第四項1の事実は否認する。

2  同2の事実中、本件各土地が旧道の敷地であつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

五1  第五項1については、本件変更処分が道路法一八条に基づくものであることは認め、その余は争う。

2  同2については、本件各土地が本件変更処分の結果不用物件として八カ月間管理されることになつたことは認め、その余は争う。

六  第六項について

1 本件変更処分の手続及び内容に違法があること、並びに被告知事がその権限を濫用して本件変更処分をなしたことは否認する。

2 第六項3(一)の事実に対する認否

(一) 同(1)のうち、別紙図面記載の「3―8」の公道が「3―9―8」に変更されたことは不知(この公道は狭山、川越市道である。)。

(二) 同(2)のうち、本件変更処分によつて別紙図面記載の「2―3―6―5」の区間に代つて「2―7―5」の区間が県道になつたこと、「3―6―5」の区間は昭和三五年以前においては県道ではなく、「3―4」の区間が県道であつたこと、元来本件道路は川越市笠幡地区と狭山市柏原地区を結ぶものとして「2―3―4」のほぼ直線の道路であつたこと、被告知事は、まず「3―4」の区間を「3―6―5―4」と変更し、次に「2―3―6―5」の区間を「2―7―5」と変更したことは認める。

(三) 同(4)の事実は認める。

七  第七項は争う。

八  第八項は争う。

九  第一〇項の事実は認める。

一〇  第一一項は争う。

(事実関係の主張)

一  本件道路の変遷

1 本件道路については、昭和四七年二月四日本件変更処分がなされ、変更処分がなされた区間は、川越市大字笠幡字柊戸三六八二番の一地先から狭山市大字柏原字上ノ原六九六番地先までであり、道路の敷地の幅員は五ないし六・五メートルであり、その長さは二、〇〇〇メートルであつた。その所在位置は川越市、狭山市及び入間郡日高町であつた。

2 本件道路は、相当古くから道路として存在しており、大正九年四月一日に旧道路法が施行されてからは当時の入間郡霞ケ関村(昭和三〇年四月五日合併して現在は川越市に編入されている。)の管理する村道であつたようである。

3 昭和四年に霞ケ関ゴルフ場がここに開設されたが、右ゴルフ場は本件道路の両側に造成されたので、その結果形としては広いゴルフ場の中を一本の細い道路が貫通しているという状況になつたのである。

4 昭和一六年二月一四日埼玉県告示第九三号によつて、本件道路は入間川笠幡停車場線として県道に編入され、更に昭和三五年九月一日埼玉県告示第六五二号によつて本件の県道「笠幡狭山線」となつたものである。

5 西武鉄道株式会社の経営下にある、いわゆる西武バスが本件道路を通行するようになつたのは昭和二七年三月一五日以降で、同バスは西武鉄道新宿線入間川駅と国鉄川越線笠幡駅との間を一日数回往復運行していたのである。

6(一) 本件道路の両側にゴルフ場が存在しているため、換言すれば本件道路がゴルフ場の中を貫通しているため、本件道路の通行者はその付近の一般住民からしばしば苦情がもたらされるようになつたのであるが、それは大略昭和三四年頃からであつた。すなわち、その頃から自動車による交通の量が増加してくる徴候がみられ、自動車の運行の頻度に伴つて苦情も増大してくることになつたのである。

(二) 本件道路の自動車の推定交通量は、一日につき

昭和三三年 四四〇台

昭和三七年 六六〇台

昭和四〇年 九六〇台

であつた。

(三) 通行者もしくは一般住民が苦情を申し込む相手は、主として埼玉県川越土木事務所、川越市建設部、狭山市役所等であつた。

(四) 苦情の内容は大略次の如きものであつた。

(1) 道路の幅が狭くて車と車とのすれちがいができない。すれちがうときは一方の車は先方の車が通りすぎるのを待避していなければならず、また狭いところで出会つたときは、一方の車はすれちがいのできるところまでバツクをしなければならず、まことに運転手泣かせの難路であり、何らかの方法によつて早くそのような不便を解消する方法をとつてもらいたいということ

(2) 本件道路には、一応簡単な防塵処理はなされていたが、極めて不完全であり、しかも本件道路には余地がなく一方の側にさえも側溝が設けられておらず、そのため雨降りのときなどは、処々方々に水たまりができたり、また泥濘のため通行が困難になることもしばしばあり、何とかしてもらわなければ通行者は全く困つてしまうという趣旨のこと

(3) 本件道路の両側にはゴルフ場があり、プレイがなされており、それらのゴルフアー達は当然本件道路を横断して一方から他方のコースへ行くわけであるが、その際本件道路を通行している自動車などとの接触の危険があり、そのような危険を事前に予防回避するため、ゴルフ場の管理規制を厳重にするはもとよりであるが、場合によつてはもつと道路として適当な場所に道路を付替えし、両者にとつて気の毒な交通事故を未然に防止する方法をとつてもらいたいこと

7 一方、その頃から被告倶楽部からも本件道路に関する希望が寄せられるようになつた。これは大略昭和三八、九年頃のことであり、ゴルフ場の希望意見の申入れ先は、埼玉県川越土木事務所及び川越市建設部であつた。ゴルフ場からの希望意見には本件道路に対する苦情も含まれており、概ね次のごときものであつた。

(一) 本件道路の交通、特に自動車、オートバイ等の車両の交通が頻繁になるにしたがつて、ゴルフアーが本件道路を横断しようとする際に、自動車等との接触事故を惹起しないようにゴルフ場側としては最大限度の努力を致さなければならないが、その危険性は常に多分に存在しており、もし不幸にして万一そのような事故が発生すると、ゴルフアーももちろんであるが、通行者にとつても極めて気の毒な結果となること

(二) 横断歩道ということも考えられなくはないが、危険性も絶無というわけではない故、道路の付替えということは考えられないものであろうかということ

8 他方、その頃から本件道路の付近に居住し且つ本件道路に対し関心を有していた多数の人々の間においては、前述したような本件道路の不安、危険性等を抜本的に解決するためには、むしろ本件道路の代りに別に新しい道路を他に造ること、すなわち道路付替えの必要性が考えられるに至つたようである。なお、右に述べた地元住民の大多数の間で道路付替えの案が発生したのは、更にもう一つ別の理由もあつたのである。すなわち、それは、本件道路がゴルフ場の中を横断している限りは道路を利用した周辺の開発は全く不可能である。換言すれば道路による沿道サービスが全く期待されず、その結果道路により形成される地域社会の経済発展と町造りを完全に阻害していることになつており、地域住民としては本件道路とは全く別個の沿道地域の開発可能性を期待しうる道路を造るのがかえつて望ましいという考えが強く抬頭してきたのである。

9 前述のように、地域住民及びゴルフ場などから本件道路に対する苦情ないしは希望意見などについて、その申入れを受けた埼玉県川越土木事務所あるいは川越市などにおいてはその頃漸く本件道路の状況について検討するようになつたのである。そして、関係職員内部における考えとしては本件道路の場合諸般の事情を総合的に考え、付替え案が最も望ましいものとの考えが起こつてきたのである。右の件につき苦情等の申入れ先は、その当時までは地元の川越市もしくは埼玉県川越土木事務所、狭山市等であつて、直接埼玉県の土木部に対し申入れがなされたことはなかつた。

二  本件変更処分に至るまでの経過

1 前述のとおり、本件道路に関する苦情の処理につき、地域住民が直接埼玉県土木部に訴え出てくるようなことはなかつたけれども、川越市建設部に対してはその頃までしばしば地域住民から、あるいは被告倶楽部からの苦情、希望等が寄せられていたので、これを直接聞いた当時の川越市建設部長間下千代忠は、昭和四二年九月中旬頃埼玉県土木部道路建設課を訪れ、同課長石原博に面会し、右の趣旨を伝えるとともに善処方を申入れてきたのである。その際、右建設部長は本件道路について詳しい事情を逐一説明し、川越市側の意見としては、むしろこの際本件道路の付替え工事に踏みきつた方がよいし、地域住民の公益のためにはそのようにすべきであるとの陳情をした。

2 川越市建設部長から前記の如き趣旨をきいた埼玉県土木部道路建設課長は右建設部長に対し「申入れの趣旨はまことに結構であるが、県としては予算措置が困難なので当分の間実現することは実際上不可能である。」旨返答した。ちなみに、その当時のこの種の道路工事に対する埼玉県の年間予算は僅か二億七二〇〇万円にすぎず、急に右のようなことを申入れられても全くどうすることもできない状況であつた。

3 しかし、右のようなことを契機として、埼玉県としても本件道路の問題に対しようやく本腰を入れるようになり、土木部内において付替え工事すなわち新道建設について本格的な検討を始めることとなつた。埼玉県の道路行政を担当する土木部の道路建設課としては、道路行政の運営に当つては大局的、全県的に考えをいたして行なわなければならず、当時としても本件道路の如き問題が発生する以前から埼玉県各地において道路改良工事の必要が要請されていたが、それをすべて一率に実行するための膨大な予算措置は望み得ず、予算的に裏付けをされた箇所から順次実現されることになるのであり、予算の裏付けのない限り企画されてから数年若しくは遅いものに至つては二〇年近くかかる例もあるのである。また数ある企画の中には、その構想及び必要性は十分に是認されながらも、予算措置がどうしてもとれないばかりに実現されないものさえ現にあるのである。県の道路建設課長としては、道路行政と予算との関係が以上のような状況であることに鑑み、陳情にきた川越市建設部長に対し前述のような回答しかすることができなかつたのである。

4 なお、右の川越市建設部長の陳情があつた後、被告倶楽部からもその支配人である坂本章一が埼玉県庁を訪れ、土木部に対して本件道路に関し川越市と同じような趣旨を申入れる陳情がなされたが、その当時直接右倶楽部支配人に面接した道路建設課長は、川越市に対してと同様、趣旨、構想においては全く妥当と考えられるが、予算の裏付けという点からこの実現は容易ではなく、また実現するとしてもある程度将来のことになる旨を回答したのである。

5 以上のような事実に基づき、埼玉県土木部道路維持課長は、昭和四二年一一月下旬頃現地ともいうべき川越市、狭山市及び日高町を訪れ、本件道路を廃止して新たに県道を付替える計画案と本件道路を廃止した一部については新道開通後に市町村道に認定することについて協議したところ、川越市、狭山市及び日高町ともその付替計画案について積極的な賛同を示したのである。その結果、県としては、現地三市町の同意もあつたので、道路網全体の機能からみてゴルフ場の中の道路よりも西側に付替えることがその地域における開発と環境の調和をはかるうえで道路行政上最も公共の福祉を増進するものであると判断したのである。

6 しかし、この計画を実現するためには前述したとおり、予算の裏付けがなければ着手することもできないので、早急な実現は望めなかつたが、これに対しその後、被告倶楽部からのもし右のような工事計画が早急に実現することができるならば、地域の発展に寄与するためにも一切の費用を被告倶楽部において負担しても結構であるとの申し出に接したのである。

7 右申し出に接してから、埼玉県土木部と被告倶楽部との両者の間において詳細について折衝がなされ、その結果昭和四四年一月一七日付で「県道笠幡狭山線道路改良工事施工協定」が締結されたのである。右協定書によると、工事費の概算総額を六三五〇万円也とし、これを全額被告倶楽部が負担することとなつていたが、その後、昭和四六年一〇月一三日付で「県道笠幡狭山線道路改良工事施工変更協定」が締結され、右金額は金六九一〇万円に増額されている。

8 新旧道路敷の交換については、県側としては道路建設課、道路維持課及び管財課において種々協議をした結果、前記昭和四四年一月七日付協定書第五条のとおり、「道路改良工事により新たに道路敷となる区間のうち社団法人霞ケ関カンツリー倶楽部の所有にかかる土地と不用になる建設省所管にかかる道路敷については、道路法九二条四項の規定に基づき別途手続により交換するものとする。」とされ、また第六条においては、廃道敷の閉鎖について「廃道となる部分の道路としての閉鎖は甲(被告知事)、乙(被告倶楽部)協議のうえ行なうものとする。」と規定されたのである。

9 この後、被告知事は、川越市、日高町、狭山市の全面的な協力の下に新道敷地の買収に着手したが、このとき被買収者に対して旧道(本件道路)を閉鎖する旨を告げなかつたという事実は全くなく、県の説明者は各説明会において説明している。なお、説明会の状況は次のとおりである。

(一) 昭和四四年二月一二日、川越市上野公民館において被買収者二八名を対象として説明会が催された。このときの説明者は

川越土木事務所工務課長   小林博   外二名

川越市建設部土木課土木係長 里村升次

同市霞ケ関支所員      一名

であり、説明事項は、工事の概要、用地面積、物件等についてであつた。

(二) 昭和四四年三月二四日、川越市上野公民館において被買収者二八名を対象として説明会が催された。このときの説明者は

川越土木事務所工務課長   小林博   外一名

川越市建設部土木課長    猪鼻正明

であり、説明事項は、工事関係についての地元の要望の聴取、単価の説明、各個人の用地に対する所有権の確認等の事柄であつた。

(三) 昭和四四年二月一三日、日高町下大谷沢公民館において被買収者二二名を対象として説明会が催された。このときの説明者は

川越土木事務所工務課長   小林博   外二名

日高町土木課土木係長    森屋好夫  外一名

であり、説明事項は、工事概要及び用地面積、物件等の説明であつた。

(四) 昭和四四年四月二日、日高町下谷沢公民館において、被買収者二二名を対象として説明会が催された。このときの説明者は

川越土木事務所工務課長   小林博   外一名

日高町長          岡村料太郎 外二名

であり、説明事項は、工事関係について農道、排水その他の要望箇所の聴取、用地、物件、単価等の説明及び各個人の用地に対する所有権の確認等であつた。

(五) 昭和四五年四月三〇日、日高町下大谷沢公民館において説明会が催されたが、説明者は

川越土木事務所工務課長 外一名

同事務所用地課長

日高町長 外二名

であり、説明事項は、工事関係、用地関係に関する件であり、その際は活発な質疑応答がなされた。

10 昭和四六年一一月一七日、新道の工事が完成し、同時に検査も終了した。新道も名称は「笠幡狭山線」であり、道路の種類は県道である。また区間も川越市大字笠幡字柊戸三六八二番の一地先から狭山市大字柏原字上ノ原六九六番地先までであり、旧道と全く同じであるが、道路の幅員は八ないし一〇メートルとなつて旧道より相当広くなつており、又延長も二、二八〇メートルとなり、旧道より二八〇メートル長くなつている。

11 かようにして、昭和四七年二月四日、道路法一八条一項の規定に基づき埼玉県告示第一四五号をもつて本件変更処分がなされ、また同日、付替えの道路について道路法一八条二項の規定に基づき埼玉県告示第一四六号をもつて道路の供用の開始がなされたのである。告示の明文にあるとおり、その関係図面は土木部道路維持課において告示の日である昭和四七年二月四日から三〇日間一般の縦覧に供せられたのである。

(本件変更処分が違法であるとの主張に対する反論)

一  手続上の違法について

告知、聴聞等の制度は、国又は公共団体等の公権力が国民に不利益な処分をするなどの際に国民の権利を保護するために設けられた制度であるが、道路行政は地域住民の生活に密接な利害関係を有するのであるからたとえ明文の規定が存しないとしても告知、聴聞の手続をなすべきであるとの原告らの主張には賛同できない。法がこのような手続を要するものとして明文の規定をおくかどうかは、もつぱら立法政策上の問題であり、したがつて、本件の場合のように特に聴聞等の手続きを定めていないものについては、これらの手続きがなされなかつたとしても、原告らの主張するような違法は全く存しないというべきである。

なお、本件変更処分が、法の定めるところに従い、一定の期間所定の場所に縦覧において供せられたことは、前記のとおりである。

二  内容の違法について

旧道が延長二、〇〇〇メートルであるのに対し、新道が二、二八〇メートルであることは原告の主張どおりであるが、その他利用状況等については原告らの主張する事実と相違する。

道路の代替性の有無の問題は、あらゆる事情を総合的に検討して判断すべきものであり、その意味において被告知事としては諸般の事情を精細に審究した結果、本件付替工事が道路行政運営上最も妥当なものと判断し、これを行なつたものであり、代替性がないとの原告らの主張は失当である。

三  被告知事の権限濫用について

1 道路の整備は一口に言つて道路交通の安全と円滑の増進をはかり、社会経済基盤の強化に寄与し、公共の福祉の増進を目的とするものである。すなわち、道路はこのように公共性の高いものであり、かつ一般公衆の用に供する自由使用の公物である。したがつて私人の自由な意思によつて道路を作つたり、変更しうる性格のものではない。

更に道路は地域の土地利用又はその計画などの骨格をなすものであるから、道路交通の他に生活環境作り等の幅広い考え方で道路の改良工事を行なわなければならないものである。

2 以上の観点からこれをみるに、本件道路付替工事は決してゴルフ場拡張のための犠牲となつたような工事では全くなく、すなわちこのような道路改良工事が始めから被告倶楽部の利益目的のためになされたことは絶対にない。本件道路付替工事によつて最も大きい利便を受けているのは、新道を自由に交通しうる通行者と地域住民である。

被告倶楽部からの強力な働きかけが推測しうるとか、地域住民の犠牲において被告倶楽部の利益を図るためにのみなされたものであるなどという原告らの主張は、全くの邪推と偏見にすぎない。

3 埼玉県における道路行政の担当者である被告知事としては前記1に述べたような広い観点から道路行政の運営に当つていたものであり、前記(事実関係の主張)において述べた事情を種々検討し、地域住民の意思を尊重し、その福祉を増進させるために本件道路付替工事を実施し、本件変更処分をなしたものであり、原告らの主張は失当である。

(特別事情による請求の棄却)

一  原告らは予備的に本件変更処分の取消の請求をしているが、仮に本件変更処分が違法であつて取消されるべきであるとしても、以下に述べる理由により右請求は棄却されるべきである。

二  仮に原告らの右請求が認められると、その結果すでに廃道になつた旧道は復活されなければならないが、それと同時に新道を全面的に廃止して元の山林原野に復元させなければならないことになる。それは、道路が付け替えられたために道路法一八条一項の規定により本件変更処分が行なわれたものであるが、この処分は、旧道についてはその供用を廃止し、それに関連して代替的性格を有する新区域についてはその供用を開始するという一連の手続を行なう行政行為であることの当然の結果である。従つてまた、本件新旧道の敷地についても道路法九二条四項の規定によつて交換したものである。

三  しかしながら、新道は川越・狭山地域を結ぶ県道として交通量も極めて多く、地域における産業、文化の上からみて、また地域住民の日常生活に対する貢献度からみても、一日も欠くことのできない重要な路線となつており、たとえ旧道が復活しても、この道路の幅は狭く、車のすれちがいもできない程で新道の如き役割を果させることは事実上不可能であり、その意味において新道が廃止された場合、地域住民は回復することのできない著しい損害を蒙ることは明らかである。

したがつて、本件変更処分が仮に取り消さるべきであるとしても、右取り消しにより公の利益に著しい障害を生ずること必至であり、本件変更処分を取り消すことは公共の福祉に適合しないと認める場合に該当する。

第四被告倶楽部の主張

(請求原因に対する認否)

一  第一項の認否は被告知事のそれと同じ。

二  第二項の認否は被告知事のそれと同じ。

三  第三項の認否は、2の(六)及び(一〇)を除き、被告知事のそれと同じ。

2の(六)の事実は不知。同(一〇)の事実は認める。

四  第四項の認否は被告知事のそれと同じ。

五  第五項の認否は被告知事のそれと同じ。

六  第六項の認否は被告知事のそれと同じ。

七  第七項の認否は被告知事のそれと同じ。

八  第八項の認否は被告知事のそれと同じ。

九  第九項の事実は認める。

一〇  第一〇項の認否は被告知事のそれと同じ。

一一  第一一項の認否は被告知事のそれと同じ。

(被告倶楽部の反論)

一  被告知事の主張中、(事実関係の主張)及び(本件変更処分が違法であるとの主張に対する反論)を援用する。

二  本件変更処分の手続の違法について

1 本件変更処分について、道路法上なんら告知、聴聞を行なうべき規定は設けられていない。特に告知、聴聞を必要とする場合にはその旨を法文上明記すべきであつて、法文上その規定のないものについて憲法条文をもつてその必要を主張するのは憲法の濫用と考えられる。

原告らは道路法七一条三項、一項、二項を挙げているが、右規定は本件変更処分に適用されるべきものではない。

いかなる法規も国民の権利、自由、福祉に関連のないものはないので、原告らの主張をもつてすれば一切の行政手続はすべて告知、聴聞を必要とすると解されるので、原告らの主張は失当である。

2 たとえ告知、聴聞が法規上必要であるとしても、現実には数度にわたる説明会が行なわれたのであつて、その間何らの反対もなかつた。説明会と称しても告知、聴聞とは内容的に同一であつて、告知、聴聞がなかつたとする原告らの主張は失当である。

三  本件変更処分の内容上の違法について

旧道はゴルフ場の中央を貫通していて、その両側は一軒の家もない。しかるに、新道はその西側には約五〇ないし一〇〇メートルの田畑を隔てて数十戸の農家が存在し、新道の利用価値は旧道の比ではない。

四  被告知事の権限濫用について

1 新道敷地の売買に際し、被告倶楽部が地主に協力金を支払つたが、それは、当初埼玉県が提示した坪単価を地主は一応諒承しながら後日値上げの要求があつたので、被告倶楽部は、本件の道路付替工事が被告倶楽部のためにも危険防止の意味において有益なので、この付替工事を完成さすため右の差額を協力金名義で負担することにしたものである。

地主との覚書が埼玉県と地主との売買契約に先立つて作成されたことはない。

2 旧道廃止後川越市が一部のみ市道と認定したのは、人家がある部分を認定したのであつて、その余の部分は人家が一軒もないので認定の価値がないのである。

五  本件各土地の交換について

被告倶楽部は、昭和四七年四月二八日、埼玉県との間において自己所有地と本件一土地とを、建設省との間において自己所有地と本件二土地とを、各交換した。すなわち、新道敷地の計画予定地に被告倶楽部の所有地が存在していたので、埼玉県知事としては、これが取得について買収、使用貸借、地上権等の方法はあるが、本件道路(旧道)のうち市町村道認定部分以外に不用物件があることを考慮し、道路法九二条四項に基づき被告倶楽部との間に右交換契約を締結したものである。

なお、本件一土地は埼玉県所有の土地であるから、被告知事がそのまま直接に被告倶楽部と右交換契約を締結し、本件二土地は国(建設省所管)所有の土地であるので、道路法九二条四項に基づき建設省所管国有財産部局長としての被告知事の同意を得た後、道路管理者としての被告知事が被告倶楽部と右交換契約を締結したものである。

第五証拠〈省略〉

理由

一  被告知事の本案前の主張について判断する。

1  原告らが、いずれも埼玉県の住民であること、被告知事が、昭和四七年二月四日、埼玉県告示第一四五号により本件変更処分をなし、同年四月二八日、被告倶楽部との間で本件各土地(当時本件土地は埼玉県の所有)を被告倶楽部所有の土地と交換し、本件一土地については、埼玉県から被告倶楽部に対する別紙物件目録一記載の所有権移転登記がなされ、本件二土地については国(建設省)から被告倶楽部に対する所有権移転登記がなされているところ、原告らが、昭和四八年二月五日、埼玉県監査委員に対し、本件変更処分は、違法、不当な財産管理であり、旧道敷地にあたる本件各土地の処分は、違法、不当な財産処分であるからその是正を求めるとして監査請求をなしたところ、埼玉県監査委員は、同年三月三一日、原告らに対し、違法、不当な処分とは認められない旨の監査結果を通知したことは、当事者間に争いがない。

2  そこで、本件訴が、地方自治法二四二条の二に基づく住民訴訟として適法なものであるか否かを判断することとする。

地方自治法に規定する住民監査請求及び住民訴訟の制度は、住民自治の原則を根底にして、住民に対して地方自治参加の機会を与えようとするものであり、右制度は、同法第二編第五章に規定する事務の監査請求等の直接請求の制度が、一定の厳格な要件の下に、住民に対し、地方公共団体の事務執行の全般にわたり不正の防止、匡正の機会を与えようとするのとは異り、地方公共団体の機関や職員による財政上の腐敗行為を防止、匡正する措置の一環として設けられた制度である。すなわち、この制度は、地方公共団体の公金、財産、営造物等が、その住民の公租、公課から形成されるものであつて、その使用、管理、処分はいずれも住民全体の利益のためになされるべきものであるから、地方公共団体の機関や職員の違法、不当な財務会計上の行為によつて生ずる地方公共団体の損失を住民の手で自ら防止、匡正し、もつて地方公共団体、ひいては地方公共団体の財産の享有者であり、かつ経費の負担者である住民各自の利益を擁護しようとする目的に出るものである。右の趣旨で直接請求の場合と異り、住民一人でもなすことができる住民監査請求ないし住民訴訟の対象となる行為は、地方公共団体の長もしくは委員会もしくは委員又は職員の行為のうち、違法(住民訴訟の対象は違法な行為に限定される。)もしくは不当な(一)公金の支出、(二)財産の取得、管理もしくは処分、(三)契約の締結もしくは履行、(四)債務その他の義務の負担という四種の財務会計上の行為又は違法(住民訴訟の対象は違法な怠る事実に限定される)もしくは不当に公金の賦課もしくは徴収もしくは財産の管理を怠る事実に限定されているのであつて、これ以外の非財産的な一般行政処分についてまでこれを対象とするものではないことは右制度の趣旨から明らかである。従つて財務的処理を直接の目的としない非財産的目的のためにする行為が、たとえ財務処理と表裏一体をなし、結果的に地方公共団体の財産の経済的価値に何らかの影響を及ぼすことがあるとしても、この点を把え本質的に性質を異にする財務処理を目的とする財産の管理等にも当るとし、原告主張のように住民監査請求ないし住民訴訟の対象とすることはできないものというべきである。

しかして、道路法一八条一項に基いて行われる道路区域の変更処分とは、道路を構成する敷地の幅員及び長さによつて示されている従来の道路の区域に新たな区域を追加し、又は道路の区域の一部もしくは全部を廃止してこれに代るべき新たな道路区域を決定するという一連の手続行為を行う行政処分であり、道路の一部を変更する場合は、路線の起点、終点又は重要な経過地点を変更する場合を除き、すべて道路区域変更によつてなされるものであつて、その本質は全体として道路区域の決定と同じく道路の範囲を変更して新たに確定する行政上の確認行為と異るものではないというべきである。

本件変更処分も成立に争のない甲第一号証、乙第一〇号証によれば、本件県道笠幡狭山線の当該区間については、路線の起終点又は重要な経過地には関係がないとして、道路法第一八条第一項の規定に基づき被告知事が道路区域の一部を廃止してこれに代るべき新たな道路の区域を決定したものであり、交通の発展に寄与し、公共の福祉を増進することを究極の目的とし道路網全体の機能を勘案し、ゴルフ場の中を通すよりも西側へ付替えることがその地域における開発と環境との調和を図る上で道路行政上最も適切なルートであるという考えに基づいてなされた道路法に基づく公物管理のための行為であつて道路として管理される区域を明確にすることを主眼とするものであり、財務的処理すなわち公有財産の財産的価値に着目して行う管理行為とは性質を異にするものであるといわねばならない。

道路区域の変更によつて旧区域にかかる道路を構成していた敷地(不用物件)は同法九二条一項に規定する不用物件の管理期間の経過と同時に自動的に行政財産から普通財産に切換わることになる(この意味で結果的には道路区域変更処分には停止条件付供用廃止処分も含まれるといえる)としても、右変更処分自体はあくまでも前記行政目的のためになされるものであり、行政財産を普通財産に切換えることを本来の目的としもしくは新旧の道路の区域内に存在する土地の財産的価値の維持保全又はその実現を目的としてなされるものではないのであつて、右処分が停止条件付で行政財産を普通財産に切換る効力を生ずること自体を把えて右処分をもつて財産管理行為とすることはできず、当該財産(不用物件)が結果的に公共の用に供されなくなることを意味するにすぎないといわねばならない。従つて本件変更処分をもつて住民訴訟の対象となる財務会計上の行為ということはできず、主位的に本件変更処分の無効確認を、予備的にその取消を求める原告らの被告知事に対する本件訴は、いずれも住民訴訟として法が許容している範囲外の行為を対象としたものであるから不適法であるといわざるを得ない。

もつとも、前掲甲第一号証によれば、埼玉県監査委員は、原告らからなされた本件道路区域変更処分のうち廃道にかかる部分の取消を求めた監査請求が所要の法定要件を具備しているものと認めて受理し、監査対象事項を、「廃道としたいわゆる旧道路敷(不用物件)の処分が適正に行われたかどうか」について、地方自治法第二四二条第一項の規定による違法もしくは不当財産処分があつたとは認められないものと判断したのであるが、監査委員が原告らの監査請求は右のように法定要件を具備し適法と判断した(ただしその理由は示されていない)ことによつて本来不適法である被告知事に対する前記監査請求及び本件訴が適法とされる理由はなく、かつ監査委員にはかかる監査請求を適法なものとする権限はないものというべきである。

二  次に被告倶楽部に対する原告らの訴の適否について検討すると、被告知事の前記道路区域変更処分が前記のとおり住民監査請求ないし住民訴訟の対象とならず不適法である以上、右変更処分がその対象となり、行政処分たる行為の無効又は取消の請求(地方自治法二四二条の二第一項第二号)が適法として認容され本件土地が普通財産ではなく行政財産であり、もしくは行政財産であつたことになることを前提として埼玉県に代位して被告倶楽部に原状回復又は妨害排除を求める請求(同条の二第一項四号)もまた不適法であるといわねばならない。

なお、同号の請求自体は必ずしも第二号の請求を前提とするものではなく、これとは別個独立に住民訴訟の対象となり得るものであり、前掲甲第一号証によれば、前記監査請求につき埼玉県監査委員は監査対象を前記のとおり旧道路敷部分(不用物件)の処分自体の違法性の有無として把え、本件道路区域変更処分の無効取消を前提としないものとしての本件土地の処分の違法の有無についても判断していることが認められるが、これによつて前記結論が左右されるものでないことは前記のとおりであるうえ本訴においては、原告らは本件土地が普通財産となつたことを前提としたうえで旧道路敷部分の処分の違法を理由として、埼玉県に代位して、被告倶楽部に対し原状回復又は妨害排除を求めるものでないことは主張自体に徴して明らかである。

三  以上の理由により原告らの本件訴はいずれも不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邊卓哉 塩谷雄 飯島悟)

別紙〈省略〉

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